……やった!
書けたっ!
はじめての小説!
はわわわわわわ/// 自分で読み返してもキュンキュンしちゃう!
もしかして、うちって天才!?
ヒシさんは最近厨二に目覚めたひしもちの女の子。厨二覚醒で開花した妄想の力にものを言わせて、はじめて小説を書き上げたよ! いまはちょうど完結直後の無敵状態(注:実際には無敵ではないが気分は無敵)になっているみたいだね。
さっそく、誰かに見せにいこう!
居てもたってもいられなくなって、家を飛び出したヒシさん。ほかの人に見せるんだったら、原稿をいったん寝かせて冷静な眼差しで推敲してからのほうがいいと思うんだけど、いきなり見せちゃって大丈夫なのかな:;(∩´﹏`∩);:
……
……
ソワソワ
……うむ
ど、どうよ……
読みにくい
え?
なにがいいたいのかわからん文章だ
な、んだと……?
誰がなにをやっているのか全然伝わってこないし
誰のセリフかもよくわからなくて目が滑る
情景描写も意味不明ときた
なんでだよ、めっちゃわかりやすいじゃんかよ!
おぬしにとってはな
それな
言わせておけば調子にのりやがって~~~~💢
おまえらみたいな読解力底辺に見せたのが間違いだった!
コンバットモード・オープン💢
シャキン!!
おっ、やるか?
果し合いならば受けて立つぞ!
きぇぇええああああああああああっ!!
まあまあ、落ち着いてよ!
いままさにヒシさんに飛びかかろうとするいかりさんの目の前に、黒い影が立ちはだかる!
なんだぁ? どこから現れたッ!?
ヒュンッ
そのお姿は……!
誰だてめぇ💢
ダークマターあねご!
そうよ、私よ♡
黒い影の正体は、元四次元社畜女子のダークマターさんだ! ダークマターさんは四次元ムーブができるから、三次元的な空間の制約を無視して、この場所に唐突に現れたみたいだね。
新作の恋愛小説の気配を察知したので、読ませてもらいに来たんだ
そうだったのか!
そうとは知らず、凄んじゃってごめんなさい:;(∩´﹏`∩);:
でも、この小説……読みにくくて意味がわからない文章らしくて……
大丈夫。わからない部分は妄想で補完して無理やりでも読み進めるのが百戦錬磨の小説読者よ
そ、そうなんだ……!
考えるんじゃない、感じるんだ
お、おうっ……!
ダークマターさんの玄人オーラに屈したヒシさんは、コンバットモードを解除した。小説を共有すると、タークマターさんはさっそく読んでくれたんだ!
ぐへへへへへ🤤
いやらしい感じで笑ってるのは、獲物を目の前にした肉食動物と同じ生理的反応なので、べつに悪いことを企んでいるわけじゃないんだよ:;(∩´﹏`∩);:
やっぱ、いちずなヒロインっていいよね~~~🤤
すごい! あの短時間でちゃんと読んでくれた!?
スパダリ風クズ男にヒーローが連れ去られちゃって、まさかのBL展開!? ってところに
先代から受け継いだメリケンサック型のパオペイを装着して、颯爽と現れたヒロイン
???
スパダリ風クズ男のアジトに一人でカチコミをかけたところとか胸アツだったし、最高にヒロインしてた!
あ、ありがとう……!
どういう話!?
あとヒーローがすごくかわいい! 特にヒーローが屈服してヒロインのわんこと化してからがやべぇな
まって、スパダリ風クズ男じゃなくてヒーローが倒されちゃうの?
これはヒロインじゃなくても舐めまわしたくなるわ
ねぇ、あねじゃ。これってひょっとして
舐めまわす!?
子供は読んだらいけないやつ?
ぶるぶるぶる
ダークマターさん。あなたは……控えめに言って、神ですね🥺
うちの小説をここまで深く理解してくれるなんて!
ま、伊達に小説好きをやってるわけじゃないからね
ただ、このままだと読みにくいのは否定できない
やっぱり、読みにくいのはいかりさんたちの読解力のせいじゃなくて、うちの文章力のせいなのか
推敲すれば読みやすくなるよ!
決して万人受けする内容ではないけれど、同じ趣味の人には確実に刺さる内容だから、まずはしっかり推敲して、それから公開してみたらどうだろう
同じ趣味の人が小説を見つけてくれるかもだし、ひょっとしたらもっとたくさんの人に読んでもらえるかもしれない!
同じ趣味の人っ……😳
うち、さっそく推敲する!
すぐじゃなくて、二・三日原稿を放置してから推敲するといいわよ
そうする!
がんばれ~!!
ヒシさんは原稿を三日寝かせてから推敲して、満を持して小説を公開してみた。ダークマターさんの予言通り、ヒシさんの小説は特定の性癖の持ち主に刺さり、思っていたよりもたくさんの人に読んでもらえたんだ。よかったね!
だが、そんなある日のこと。
ただいま~♪
うふふふふふ♡
? お母さん、なにかを読んで喜んでる
なにを読んでるんだろう
こっそり
わ! うちの小説ッ!?
この小説とってもいいわ~。キュンキュンするし、なによりヒーローが結婚する前のうちの人にそっくり♡
懐かしいわ~。いつもは澄ました顔をしてるんだけど、ふたりきりのときにはこんな風に甘えん坊で、いい子いい子♡ってしてあげたのよね~
ヒェッ……!
あら、ヒシ。帰ってきてたのね!
……お父さん、と……お母さん……が……
ヒシ?
!!!!!?!?!?!?!
どうしたのヒシ!!
!?|彡サッ
こら、待ちなさいってば!
結婚前の両親のあれこれをいろいろと具体的に想像してしまったヒシさんは、動揺のあまり、件の小説を歴史の深淵に葬り去ったのであった。