前回までのあらすじ
いもこのその場しのぎの提案で、サンタさんとの独占パーティ権をかけたクリスマスダンス大会が開催されることになった。
最高のダンス日和で迎えた大会当日。ぺったんこ公園に設営された野外ステージの周りには、朝早くから黒山の人だかりができていた。
みな、クリスマス・プレイベントの噂を聞いておっとり刀で駆けつけてきた練度の高いオーディエンスばかりである。

俺みたいな鬼が、クリスマスを楽しんでもいいのかな?

クリスマスはみんなのもの

もちろんあなたもみんなの一人

一緒に楽しみましょう

俺も、みんなの一人……つまり、仲間ってこと!?

ふふふ♪

ぺったんこタウンにふさわしくないイベントだったら即刻滅ぼす

それはやめて

かわいくないものには死あるのみ!

ほんとにやめてッ!
時を同じくしてバックステージでは、イベントの主催者であるぺったんこウェザーニュースの編集部のみんなが、石油ストーブを囲んで束の間の休息を楽しんでいた。

編集長が突発的に大型イベントを企画するから

間に合うかなって不安に思いながら大急ぎで準備したけれど

なんだかんだ間に合って安心した!

俺も!

これで心置きなく年を越せるね

待って、年越しの前にクリスマスを忘れないで?

あ

俺らは今の今まで、サンタさんとの独占パーティ権をかけたクリスマスダンス大会の準備をしていたんだよ?

誰がパーティ権をゲットするかな?

ダンスガチ勢さんもクリスマスガチ勢さんも、どっちも強そうだから勝敗の予測がつかないよ

白熱した試合が期待できそう

楽しみだね!

うん!
楽しそうにしている編集員二人を傍目に、編集長のいもこは深刻そうな顔で体操座りをしていた。

……

編集長、元気ないね

準備で疲れちゃった?

みかん、食べる?

つ(みかん)

(みかん)

そういえば、イベントの開催を決めたときから、いもこはずっとこんな調子だよ

ダンスガチ勢とクリスマスガチ勢を倒さないといけないって言ってたけど

なんと、その両チームがこのイベントに参加するんだよね!

いったいどういうことなんだろう?

ひょっとして、このイベントは彼らを陥れるために仕組んだもの?

でもさ、少なくともダンスガチ勢の妖精さんたちは、俺らのニュースの熱心な読者だよ

なんで陥れなきゃいけないのさ

だよねぇ
二人が訝しがっていると、いもこがくぐもった笑い声を立てた。

クックックッ……どうやら二人には隠しごとはできないみたい

やっぱり、なにか企んでるんだね?

まさか本当に陥れるつもりなの?

すべては、俺らのフェイクニュースのフェイク性を死守するためじゃんね

詳しく説明してもらおうか
いもこは胸の内でずっと温めていた陰謀の腹案を二人に打ち明けた。

かくかくのしかじかで

サンタさんとの独占パーティ権を、俺らが勝ち取り

権利を敢えて行使せずにクリスマスをやり過ごせば

あのインタビューのフェイク性を守ることができるじゃんね

!?

(唖然)

ガクガクブルブル

あ、でも待って?

私たちは主催者だよ?

主催者特権で審査員に便宜を図ったりして買収すれば

どんなに相手のダンスが強くても、私たちの優勝はゆるぎないよ?

俺も最初はその手を使おうって思って

賄賂用のお菓子を買いに行ったりしたけれど

途中で思い直したじゃんね

大会を楽しみにしてくれているみんなが、後でそんな不正があったことを知ったら

嫌な気持ちになるじゃんね

だから審査は公平に、観客による人気投票にした

えええっ!

その審査方法だと、事前に友だちに呼び掛けて仲間をいっぱい集められたやつが有利だよ?

私たちは大会の準備に忙しくって、そんな仕込みをやる暇はなかったよ

いくらなんでも勝算がなさすぎる

辞世を句を詠む?

詠んだほうがいいかもしれないじゃんね

クリスマス ケーキをたべて ご乱心

シャンパンの噴く 浅き夢見し

グスン
ぺったんこウェザーニュース編集部のみんなが世を儚んでいる間にも、時は無慈悲に流れ、あっという間に大会がはじまる時間になった。
司会の人が姿を現すと、オーディエンスの期待の満ちた歓声が地鳴りのように会場を揺らした。
ワァアアアアアアア

ひぇぇえええ、ものすごい歓声!

しらたまちゃんのライブより盛り上がってるよ

サンタさんの集客力、すごい!
ドッカンドッカン!

ドッカンドッカン盛り上がってるところ悪いけど、いまから出場者の紹介をするから静かにしようね?
シーン

急に静かになりすぎて、逆に怖いな?

ええと、みんなが静かになるまでに、0.1秒かかりました
シーン

今日は楽しいイベントなんだから

もうちょっと騒がしくしてくれてもいいんだよ?
シーン

出場者を紹介するって言ったから、静かにしてくれているんだね?
シーン

みんな、えらいなぁ!
シーン

や、やりにくい……!
水を打ったように静まりかえった会場で、遠く微かな小鳥の声をBGMに、司会の人が出場者の紹介をはじめた。

ダンスと言えばこの三人

ズンズン( ‘ω’ و( و”♪

ドコドコ₍₍ (ง ˘ω˘ )ว ⁾⁾

ヤァッ!ヤーーッ!

ダンスガチ勢の妖精3人組だぁ!

(◜ᴗ◝)≡ヾ(゚ω。ヽ≡ノ゚ω。)ノ゙

└(‘ω’)┘シュタッ
ワァアアアアアアア
ダンスガチ勢のエース、緑のやつのテクニカルなパフォーマンスで、会場は大盛り上がりだ!

出だしは上々!

観客の心をわしづかみにしてやったぜ!

この勢いで、サンタさんもわしづかみにしよう!

そして、クリスマスといったらこの人たち
司会の人が頭上を指さす。すると、ステージを照らすスポットライトのさらに上から、なにものかが翼を広げて舞い降りてきた。

シュッピーンッ

ファサァア

ドテッ! ――ズササササッ

クリスマスガチ勢のトリさんたちだぁ!

痛てててて、おしりから着地しちゃった♡
ワハハハハハハハ!
紫のやつのあざといムーブで、会場は笑いの渦に包まれた。

この2チームが、サンタさんとの独占パーティ権をかけてクリスマスダンス対決をします

どちらもクリスマスやダンスに対する思いがものすごい人たちです

一歩も譲れない戦いになりそうですね……ヒェッ!?

(ナイフ)
いつの間にか司会の人の背後におはぎさんが立ち、おもちゃのナイフを突きつけていた。

出場者はもう一人いる

なんだって? 私、そんな話聞いてないんだけど

さっき決めた

クイッ
おはぎさんが舞台そでに目配せをすると、ステージのライトがパッと消える。次の瞬間、ライトが戻ったステージの中央に立っていたのは……
とっておきのポーズを決めたいもこだった。